本年度は、エジプト及びドバイに調査に赴く予定であったが、当該国における政情不安のため、調査が不可能になった。そこで、イスラム金融及びイスラム法の研究が活発に行なわれているイギリスのSOASに赴き、資料を収集するとともに、マレーシアのシャリア高等研究所及びマレーシア会計基準委員会を訪問し、インタビューを行い、資料を収集した。 第1に、平成21年度に収集した資料を分析し、本年度は、イスラム法国におけるオプション及びスワップの法律問題について分析を行ない、オプション取引についての研究成果を公表した。オプション取引と同様の経済的効果を有する取引は、手付金支払型売買が認められていることとのアナロジー、khiyar al-shartなどの法律構成によって認められると解されていることを明らかにした。他方、スワップ取引と同様の経済的効果を有する取引については、タワルク(bay'-al-tawarruq)または約束(wa'd)という法律構成によって実現していることが判明した。 第2に、もう1つの柱である、イスラム法国におけるデリバティブ取引の会計処理との関連では、イスラム法の発想によって、どのような会計問題が生ずるのかについて分析を行なった。上述のように、一般的なデリバティブ取引がシャリアの下では許容されないことから、異なった取引を組み合わせて同様の経済的効果を得ることが会計処理にどのような影響を与えるのかという、いわゆるsubstance over formの問題が一方で存在し、他方で、利息が許容されないこととの関連で、割引現在価値計算などを組み込んでいる国際会計基準などとの関係が問題となることが明らかになった。
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