ある威信の低い役職に、これまでの前例からすればあり得ないほど高い威信を持つ議員が就任する場合、その議員の威信が下がった左遷なのか、その役職の威信が上がったのか、判断は難しい。本研究では、こうした問題を解決するために、ある役職にある議員が就任したというデータから、その役職と議員の威信を同時に推定し、かつ当選回数や選挙結果などの他の要因の影響を推定するベイズ・モデルを構築した。国務大臣や国会委員長などの平均的な威信と、個々の所管ごとの大臣・委員長ごとの威信を、分けてモデル化した。こうしたことが可能になるのは、その人物が就いた他の役職の威信から当該役職の威信を推定したり、その役職についた他の人物の威信から当該人物の威信を推定するためである。さらに、役職の威信や当選回数などの効果が、時期によって変わることを織り込んだ、時変モデルも構築した。 より具体的な実装としては、マルコフ連鎖モンテ・カルロ法を用いるプログラムを、統計解析用のコンピュータ言語であるRで書いた。マルコフ連鎖モンテ・カルロ法は、ベイズ的手法の1つであり、パラメータの事前分布を与えた上で、あるパラメータのT+1回目の推定値を他のパラメータのT回目の推定値からサンプリングすることを繰り返し、例えば初めの100万回分を捨てた後の100万回分の推定値のサンプルの経験分布をもって、パラメータの事後分布とする、という手法である。 データの原資料は、品田裕・福永文夫・井上正也『1960~1993年自民党在籍衆議院議員の全記録「国会議員データベース」自由民主党・衆議院議員編』であるが、そのままの形では使えないので、本研究にあった形式に変えた。このデータに上記モデルを適用するマルコフ連鎖モンテ・カルロ法を実行し、各大臣の威信を推定した。
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