研究概要 |
本年度の主要な課題は、第一にユートピア文学関係、政治思想史関係の文献の収集であった。つまり一次資料となる個々のユートピア・ディストピア小説、二次資料となるユートピア理論に関する文献、そして西洋政治思想史に関する文献を集め、整理していくこと。この課題は無事果たすことができた。 第二の課題は、これらの文献・資料から得られた知識を活用して、理論的枠組を構築することであった。具体的には、研究の対象となる時代を、(1)社会主義が理想化されたH・G・ウェルズまでのユートピアの時代、(2)ジョージ・オーウェルまでの反社会主義ディストピアの時代、そして(3)社会主義の終焉の後の時代に大別した上で、本年度では、社会主義が理想化された第一期において、ユートピア文学というジャンルにおける社会主義のあり方をめぐる論争を整理し、また社会主義が暗黒郷と目された第二期において、社会主義や全体主義批判がどのような形で打ち出されたかを明らかにすることであった。この課題も果たすことができた。 具体的な研究成果の中でも、社会主義が理想化された第一期において、ユートピア文学というジャンルにおける社会主義のあり方をめぐる論争を整理したのは、「一九世紀末の社会主義ユートピア小説--ベラミーとモリスの場合」(『立命館経済学』2009年)などであり、また社会主義が暗黒郷と目された第二期において、社会主義や全体主義批判がどのような形で打ち出されたかを明らかにしたのは、「初期H・G・ウェルズの進化論的社会主義--『タイム・マシン』から『宇宙戦争』までのディストピア小説における政治思想(1)」(『立命館経済学』2009年)などである。同時に、ウィリアム・ゴールディング研究の第一歩として、その評伝を書評した。David Askew, "And So Much More… : William Golding : The Man Who Wrote Lord of the Flies, by John Carey", Quadrant, December,2009, pp.122-123.また、「空想的社会主義」(「空想」とはいうまでもなくユートピアの邦訳である)で知られるエンゲルスの評伝も書評している。David Askew, "The Champagne Communist : Marx's General : The Revolutionary Life of Friedrich Engels, by Tristram Hunt", Quadrant, April, pp.123-125.
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