研究概要 |
本研究は、グローバル・ハウスホールディング(越境する家庭形成)を、社会科学の分析対象として確立することを企図した。「ハウルホールド=家庭」は概念的に血縁家族よりも広く、その射程に、国境を越える家事手伝い、介護士、乳母、オーペア、国際養子縁組・結婚などを収めている。本研究では、東アジアに焦点を当て、先進国内で男女平等化と少子高齢化が進行する時代において、ケア労働の担い手が国際化し、それを介して「家庭」が国境横断的に形成される現象を取り扱った。そのことで、一方でグローバル化や国際関係の研究を進化させ、他方でジェンダーやエスニシティ、福祉や労働の研究との接合を図る。また、政策提言に向け、その基盤形成を図らんとした。本研究の公刊成果物としては、"Towards a Transnational lntimate Sphere?-'Care Deficit' and Global Householding in East Asia-,"Hokkaido Law Review,Vol.62,No.6,2012,pp,191-208.という英文業績が挙げられる。その上、挑戦的萌芽研究として、課題を発展的な形で発見することも意識した。ここでは、少子高齢化と男女平等(雇用均等)の中でケア労働者が越境するというグローバル化の一現象の先に、近代国家が「民」として考え制度化してきた構図が、相対化されてきている様を課題として意識し、その上で、シティズンシップの変容などが不可避的に議論の俎上に上らざるを得ないという暫定的な結論を得た。そこから、新たに「グローバル化時代のシティズンシップ-日本における『民』の再定義に向けて-」という科学研究費基盤研究(B)のプロジェクトに応募し、内定を得た。したがって、本萌芽研究は、この基盤(B)研究に衣替えし、より大きな共同研究として、ざらに包括的に国際人口移動の政治学に取り組んでいくことになろう。
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