階層間の貧富格差が存在する経済・社会において、(一)経済成長、(二)景気循環、(三)階層間移動、等の環境変化が、国民の総効用という意味での国富にいかなる影響を及ぼすか、という普遍的な問いは古来永らく研究されてきた。しかしそこに産業構造に関する考慮を加味した研究は従来、必ずしも十分に行われていない。本課題では不完全競争市場、特に独占ないし独占的競争の存在下において、(一)国民所得の成長が相対的貧困層の効用を却って悪化させる、(二)独占(的競争)価格が景気に逆行する、(三)貧困層の一部が中間層・富裕層へと成長すると、残された貧困層の効用が悪化する、等の危険性を、極めて単純化された直観的に解り易い理論モデルで簡潔に示すことを旨とした。 そこで本課題では、可能な限りシンプルで、経済学研究者のみならず経済学の基礎を一通り修めた者ならば容易に理解可能な理論モデルを用い、最小限の費用投入と最短時間で上述のような研究上のニッチに光を当てることを目し、「独占的な消費財市場」を想定して、階層社会における所得の成長と消費(=効用)水準との関係を分析した。
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