研究課題
本研究は、経済学理論における「倫理」ということの取り扱いについての研究である。今年度はその初年度として、特に思想的・方法論的な基礎付け、研究者間での共通の認識の確立、またその方向に基づいた簡単な動学的一般モデルの構築といったことにあてられた。定期的な読書会と勉強会は、研究代表者の浦井を中心に、連携研究者として名前を挙げた吉町(同志社大学)白石(神戸学院大学)、あるいは有志の学生らとほぼ毎週おこなわれ、その結果を通じて分担者、竹内、堂目とのディスカッションを加えて、約7回分の報告書に現在まとめられている。行動主義、プラグマティズム、西田哲学、アマルティア・センの「経済学と倫理」、分析哲学と科学論、量子力学、パースのアブダクション、ケインズ、ヒックス、ブローデル等との関連で本研究趣旨と言える考え方がまとめられており、部分的に次年度に出版の予定もあり、現在改訂・更新中である。特徴として、経済学と倫理について、従来の「2元論」的な当たり前の取扱いかち脱却した「1元論」あるいは「全体論」的説明を与える事ことにより、ヒューム・スミス的スコットランド哲学から、クワイン等の分析哲学の展開、そして西田哲学やプラグマティズムといった大きな(2元論以外の)流れを、統合的に取り扱うことが可能となっている。パトナムの「存在論なき倫理」という言葉で代表されるように、倫理を「分析的」な「理性」と相反する物としてとらえるのではなく、その中に自然に入らざるを得ない物として取扱うことにつながっている。またこの視点は、我々の推論を帰納・演繹に限定してしまうこととも関係しており、ゲーム論的な世界観の根本を再度問い直すことともつながって、広く経済学の方法論、世界観とは何か、経済学とは何か、を問い直す上での貴重な足場となる。これらの点は本年度を通じて、予期していたところ以上の発展的完成を見た。浦井はとりあえずの出発点となる基礎的理論モデルを後出のDPおよび書籍の9章・10章に提示している。堂目は後出の学会基調講演報告と、その要旨を東洋経済の出版物にまとめている。竹内は19世紀から20世紀初頭にかけての現代統計学的手法と経済学を含む周辺諸科学との関係を文献調査によって分析し、その成果の一部を後出論文として発表している。
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東洋経済『現代経済学の潮流』 (印刷中)
数理経済学研究センター会報 第39号
ページ: 1-6
経営思想研究への討究-学問の新しい形-(「現代統計学が二十世紀科学に与えた影響)(文眞堂)
ページ: 41-56
Discussion Paper, No.09-41, Graduate School of Economics, Osaka University 09-41
ページ: 1-16