本研究は、経済発展における企業家精神(entrepreneurship)の役割を検証することを目的とする。本研究において企業家精神は以下のように定義する。すなわち、市場不均衡状態を利潤機会の源泉とみなし、すぐれてこれに感応的であり、合理的計算よりも直感に近い動悸に基づいて組織を構築するリスクを厭わない個人的性質とする。このような企業家は、経済発展の初速度を与える。本研究では、このような企業家精神の性質を吟味するものであるが、特に、途上国における地場企業とそこに進出した多国籍企業との間の企業間関係の脈絡の中で検証していく。両者の関係は、典型的には後方リンケージの形成として立ち現れる。この形成に、地場企業の企業家精神がどのような影響を与えているかを吟味する。ペナン(マレーシア)での現地調査における知見に基づき、リンケージの形成と発展を規定する決定因、性質を検証し、経済発展に対する含意を導くことを目的とする。 本研究は、定量研究を志向する。企業家精神を構成する諸要素、例えば企業家的動機、家庭環境、就労経験などの要素が企業発展にどのように関係するか、その因果関係を検証する。その目的にために、構造方程式モデルの適用を試みるものである。しかしながら、収集したデータが不十分であったために、実証結果は不十分ながら、諸要素間の因果関係を規定する理論的なフレームワークを構築することには成功している。
|