本研究では、中小企業の無形資産の開示が将来性評価につながり、中小企業の資金調達に資することを狙いとしている。このため、中小企業の無形資産開示の促進に寄与する開示方法を検討するとともに、金融機関が必要としている中小企業の将来性評価のための無形資産とはなにか、それらがどのような形式や指標で提供されなければならないのかについて考察することにしている。そこで、今年度は、中小企業の無形資産の開示において、開示内容の信憑性を上げるために実施している工夫や、開示後の効果について検討した。そして、金融機関にとっての無形資産(非財務情報)の評価困難ポイントや信憑性を高める開示方法、さらには中小企業金融への無形資産会開示の影響について考察した。 中小企業については、知的資産経営報告書を用いて無形資産の開示を行った企業に対して意識調査を行った。調査対象には、開示内容の信頼性などを評価する京都府の「知恵の経営認証事業」で認証された中小企業を選んだ。金融機関は信用調査機関の協力をうけ昨年度実施したアンケート調査(銀行、信用金庫、信用組合、信用保証協会607機関に対するアンケート調査)をもとに、データ解析を行った。 その結果、中小企業は無形資産に対する開示内容の信憑性を向上させるために、無形資産の保有とその活用をストーリー形式にて開示することに注力しているが、金融機関は開示内容の信憑性を高めるには、ストーリーよりもむしろ業界他社との比較ができる客観的な指標を求める傾向が強いことが明らかになった。そして、開示内容が信頼できると、中小企業金融のメニューのうち「長期融資」に影響を与え、融資条件の「額」「期間」「利子率」のうち、「額」に影響することが明らかになった。 ただし、ストーリー形式での開示は、経営者の無形資産への気づきや経営判断さらには社員教育といったマネジメントに役立つことも同時に明らかになった。
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