平成21年度に実施した主な研究活動は、資料収集・文献解題とこれらを通じた理論研究・考察である。まず現行の相続税・贈与税算定における取引相場のない株式および出資の評価方式を確認し、その実務的特長と理論上の問題点を明らかにした。すなわち国税庁の通達による「類似業種比準方式」等の代表的な評価方式は、画一的で計算によるブレがない反面、理論的根拠に乏しい。そこで、こうしたマーケット・アプローチの長所を保持しながら、ある程度の理論性を加味した評価方式を探求している。つぎに、実際に中小企業の事業承継にあたって、現行の「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」の下で、非上場株式評価を収益還元方式・DCF方式、純資産方式、比準方式によって算定する場合の留意事項を確認し、各方式間の差異を事例を用いて比較検討した。その際、遺留分に関する民法特例との関係から、後継者と非後継者との間の情報の非対称性が問題となりうる点に着目し、十分な情報説明と合理性が高く恣意性が少ない評価方式の採用が必要であることをエージェンシーモデルを援用して明らかにした。最後に、企業価値評価全般について、オプション評価モデルの適用可能性について米国文献を中心に解題を進めている。以上の研究から、取引相場のない株式および出資についての公正な評価のあり方を示すことで、中小企業の事業承継の円滑化に寄与できるとともに、中小企業の企業価値評価をFair Market Valueの観点から理論的に再考することができるものと考えられる。
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