本研究は、「越境的文化」をめぐる言説に着目することにより、文化的アイデンティティと領域性の関係、そして従来の空間概念について再考することを目的としている。 本年度はまず、1.グローバル化による「脱領土化」に関して行われてきた先行研究を丁寧に収集するとともに、批判的に検討した。同時に、2.グローバル化とは異なる文脈のなかで、文化的アイデンティティと「領域」との関係を問い直していこうとする言説に着目し、考察を行った。そして、3.海外調査を、領土をもたないが主権をもつという「マルタ騎士団(国)」について調べるために実施した。具体的には、(1)フランス・パリ市の「マルタ騎士団(国)」の事務所での文献や資料の収集並びにインタビュー調査、そして(2)イタリアのローマ市にある「マルタ騎士団(国)」の本部ビル内の図書館での文献調査を実施した。また(3)「マルタ騎士団(国)」が最後に統治をしていた領土であるマルタ島において、現在の「マルタ共和国」の人々が「マルタ騎士団(国)」の歴史をどのように継承しようとしているのかについて調査を実施し、関連する文献や資料の収集を行った。 そうしたなかで、近代国民国家形成の過程で成立した「領域性」の概念について、また「国民国家的思考」にとらわれない文化的アイデンティティと「領域性」の問題について再検討した。その際、4.他大学の研究者と空間概念や文化的アイデンティティと領域性の問題についての意見交換も行った。次年度は、今年度の調査結果を踏まえながら、フランスのアルザス地方で調査を実施し、「越境的文化」をめぐる言説、そして文化的アイデンティティと「領域性」の問題について、研究を深める予定である。
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