本研究は、「越境的文化」をめぐる言説に着目することにより、文化的アイデンティティと領域性の関係、そして従来の空間概念について再考することを目的としている。 本年度は、1.ひきつづきグローバル化による「脱領土化」に関して行われてきた先行研究を批判的に検討するとともに、2・海外調査を中心に研究を実施した。まず、(1)今日では領土をもたないが主権をもつ国家となっている「マルタ騎士団(国)」(Sovereign Mihtary Hospitaller Order of St.John of Jerusalem of Rhodes and of Malta)が、13世紀後半から14世紀前半まで本拠としていたキプロス島、およびその後14世紀前半から16世紀前半まで本拠としていたロドス島を訪れ、騎士団(国)の歴史が現在どのように継承されているのか、調査を行った。また今日のキプロスでは、北キプロス・トルコ共和国とキプロス共和国(南キプロス)の間で島の分断が続いており、国連が緩衝地帯(グリーン・ライン)を設けて管理しているが、その境界地帯にも赴いて現在の状況を観察するとともに、住民への聞き取り調査を実施した。かつて統一されていた島の分断が、文化的アイデンティティや空間概念にどのような影響をおよぼしているのか、考察を行った。それと同時に、関連する文献・資料も収集した。次に、(2)ドイツやスイスと国境を接しているフランスのアルザス地方において調査を実施した。アルザスの言語文化政策にかかわっていた議員や、県の地域言語文化政策担当者、アルザスの言語・文化の復権運動を続けている活動家にインタビュー調査を行った。また、言語復権運動団体が主催する文化イベントにおいて、観察調査も行った。 これらを通して、文化的アイデンティティと領域性の問題、また空間概念について考察を行った。
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