研究概要 |
本研究は、「越境的文化」をめぐる言説に着目することにより、文化的アイデンティティと領域性の関係、そして従来の空間概念について再考することを目的として実施した。 最終年度である本年度の研究では、1,先行研究で示されてきた新しい空間認識や相互関係を捉えるための概念を、引き続き批判的に検討した。そして2.海外での補足調査をフランスのストラスブール市およびパリ市で実施した。(1)ストラスブール市では、アルザスの歴史や文化、言語が学校でどのように教えられているのか、また教えていけばよいと考えられているのかについて、研究者や教員、地域圏や県の言語・文化問題担当者、地域運動家に話を聞き、これまで得られてきた知見を補足する調査を行った。また、アルザスの文化や文化的アイデンティティについて、詩人や作家がどのように表現してきたのか、関連する資料の収集を行った。他方、フランス・マルタ騎士団の支部の方に「マルタ騎士団(国)」のメンバーや組織の活動について、また領土のない国家であることにかかわりインタビュー調査を実施し、関連する資料の収集も行った。(2)パリ市では、本研究テーマに関連して、研究者と意見交換を行った。また、大統領選挙が近づく中、各政党が人々の間の差異、国家間やEU域内/域外といった境界をどのように設定しようとしているのか、その見解を確認した。 これらの調査を通して、地域レベルでみられる「越境的文化」や国家に縛られない空間概念についての言説と、国家レベルでみられる文化的アイデンティティについての言説をまとめるとともに、特定の領土に縛られることのない文化的アイデンティティについて、一定の知見を得ることができた。
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