今年は研究の第一年度にあたり、中国での実地調査研究のための基礎固めを行った。 ダム建設立ち退き移住者陳情行動研究に関しては、(1)中国側研究協力者(怒江のダム)へのヒアリング、(2)日本人連携研究者も立ち退き者の移住先(広州市)での予備調査を実施した。一方で研究代表者らは北京と開封市での初歩的な現地調査も行った。特に北京市での最高裁判所や国家信訪局前での陳情者や陳情者狩り(地方政府が要員を派遣して行う公務としての陳情阻止行動)の実態の観察、陳情行動支援グループへのヒアリングなども実施した。また開封市では、陳情者のメッカの一つになっていた開封府内の陳情場所が当局により撤去されている事実も発見できた。また、企業破産に伴う労働者の陳情行動について寧夏省銀川市での国有企業での追跡調査の可能性も探った。 いずれにしてもテーマそのものが中国では政治的に敏感なもので、中国人研究者も敬遠するようなテーマであり、実証的な調査方法については、今年度のプレサーベイを通じてアイデア的な方法を見出したにすぎない。 他方、文献研究としては、主として行政法規の一つである「信訪条例」の訳出と初歩的な解釈を行った。条例の整備の度合いと実態(信訪制度による問題解決率がわずか0.2%というのが定説)の乖離の一因が条例の内容そのものにあることを分析した。 信訪制度の実効性の低さと陳情者の多さや深刻性との乖離問題は、中国の司法体系それ自体の成熟度、法意識、統治システムなどと緊密に絡むものであることがわかった。 引き続き現地調査の実現と理論研究の深化に努力していきたい。
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