以下の3つの研究を行った。 1.親子関係に関する心拍変動による評価の研究 健常の親子と不適切な養育状況を生じてしまった親子において心拍変動測定を行い、その精神的な状態との関係を検討した。不適切な養育を生じた親子関係を持つ子どもでは、交感神経系の亢進および副交感神経系を生じる傾向があることが確かめられた。これにより、心拍変動を用いて親子関係を評価することができることが示唆された。 2.親子関係と子どもの問題行動の関係に関する調査研究 乳幼児から中学生をもつ地域住民に対するアンケート調査をA県B村で行い、十分な回答のあった672名の親の回答から、親の養育状況やこれに関わる要因と子どもの行動を分析したところ、親の精神健康や配偶者の協力の少なさや経済的不安が親の否定的な養育スキルに関連しており、それが更に子どもの問題行動を増やすという関係が認められた。この結果は、親自身のセルフケアや夫婦関係を含む家族のコミュニケーションをよくする働きかけが必要であることが示唆された。 3.養育者と子どものコミュニケーション評価に基づく心理教育プログラム 養育者と子どもの関係の持ち方について、両者が同席した遊びの場面やロールプレイの場面における相互作用の行動観察やそのビデオ録画および質問紙によるコミュニケーションの評価を行った。そのうえでその評価結果やビデオそのものを養育者に示して、交流の改善に役立てる心理教育プログラムを行った。 その結果、こうした手法がかなり重篤な虐待事例でも養育者のスキルの向上や子どもの状態の安定化について効果をもつことが確かめられた。ただし親が自分の問題を否認している場合や途中で脱落する場合は十分な効果は得られなかった。 これらの研究を通じて、養育者-子どものコミュニケーションに対する生理および行動の評価とそれに基づいた心理教育プログラムの有効性が示唆された。
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