1.個人焦点の方法論の帰結と、その拡張可能性の検討 個人の心に焦点を当てた従来の社会心理学のパラダイムのもつ、方法論上のメリット、デメリットを論じ、その議論を通して、個人の心の機能を表現する概念が、集団心的な概念に拡張が可能であるかを考察した。集団心的概念への拡張については、心の哲学における「心の実在性」に関する議論を再検討し、集団における「心的なもの」が、道具主義的、機能主義的な観点から概念化可能であることを、認知心理学を擁護してきたFodorらの論点に着目しつつ明らかにした。また、機能主義を推し進めるための条件として、①機能的集団の行動がターゲットであること、②したがって、「日本人」などの「集合」としての集団概念は、機能主義的には扱い得ないこと、③何らかの形で、機能として導入する概念の実在性が保証されていること、の3点を明らかにした。 2.個人焦点の方法論の功罪についての総合的議論 社会心理学者が陥りがちな「方法論的個人主義への偏向」といった、実証研究を進めていく際に待ち受ける「罠」についての考察を深化させ、それにどのように向き合うべきなのか、また、社会心理学の望ましい研究方向として、どのような可能性があるのか、などについて、研究会、ワークショップ等を通じて、総合的に議論を行った。その中で、「ミクロ-マクロに及ぶ変数間の関係づけとしての社会心理学」という視点を見出し、ネットワーク的統合知としての社会心理学のあり方が、一つの有望な可能性であることを明らかにした。
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