他者理解の認知的基礎を調べる「心の理論」研究は、生涯発達研究の分野においてこの20年間ほどの間に最も進展した研究テーマのひとつである。しかし、幼児期までの研究に比べると、児童期以後の「心の理論」研究の進展は芳しいとは言えない。この領域の研究を飛躍的に推進するための一つの重要なテーマは、言語能力の発達、とりわけプラグマティックス(pragmatics;語用論)との関連性を明らかにすることである。本研究では、「心の理論」と関連する「プラグマティックな言語理解能力」の発達を測定する課題を新たに開発し、論理的思考(形式的操作)の発達との関連を押さえつつ、その基準関連妥当性を調べ、児童期以後の「心の理論」の発達ならびにアスペルガー障害などのコミュニケーション障害の特徴を理解するための基盤を提供することを目的とするものである。研究の焦点は、児童期以後の高次の「心の理論」の発達ならびに「心の理論」の発達の遅れにとって、プラグマティックな言語理解能力がどのように関連するかである。この研究を進める際の問題は、「心の理論」の獲得と関連するようなプラグマティックな言語理解能力を測定する検査や課題がほとんどないことであり、ここに挑戦的萌芽研究を行う目的と意義がある。 平成21年度の研究では、大学生500人(男/女、文/理、各同数)を対象とする質問紙法を用いたインターネット調査を実施した。その内容は、高次の「心の理論」の発達を情動知能(emotional intelligence)の観点から調査するものであり、因子分析の結果、自己の情動の認識と調整、他者の情動の評価と認識、他者の情動の調整の3因子が抽出された。これらの因子は、独立問題焦点対処、独立情動焦点対処、他者活用対処といった行動と高い相関があった。
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