本研究では難病患者ライフの記述方法を新しく提案することを目的とし、厚生心理学という新しい学問領域の創生を目指すものである。 まず、国立新潟病院で療養中の筋ジストロフィー患者にQOL評価法のひとつであるSEIQOL(the Schedule for the Evaluation of Individual Quality of Life)を実施する試みを継続中である。この方法は半構造化面接法を内包しており、従来のQOL尺度とは異なり、患者が主体的に項目を生成することができる。本評価法を経時的に実施する(半年に1度程度)ことで患者の症状の変化やライフイベントの発生によるライフの変容を調査した。その結果、患者のQOLは患者を取り巻く環境や空間を反映するものであり、QOLそれ自体が構成、再構成を繰り返しながら変容するものであることが明らかになった。また分析の視点に対話的自己(Dialogical self)理論を組み込むことで、患者がどの環境資源と自身のQOLを結びつけているのかが明確になった。家族との関係についても、ポジショニングという概念により明確化することができる。これにより、患者を患者ライフの主体者として捉え直し、新たなライフの記述方法を提案する事ができる。これは、医療・看護分野における具体的なケア指標となり、また臨床心理場面での有効なアプローチとなりえるのではないかと思える。 09年度中に、対話的自己理論のHermans名誉教授(ラドボウド大学)、社会的構成主義のGergen教授(スワスモア大学)が来日し立命大で講演・講義を行った。この機会を通じて、難病患者のライフをとらえる心理学のあり方について両教授と議論した。 また、9月に「日本学術振興会ひらめき☆ときめきサイエンス~ようこそ大学の研究室へ~KAKENHI」企画を実施し小中学生に研究成果を伝えた。
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