研究概要 |
【高速逐次提示法による画数の影響の検討】 老視によって小さい文字が読みにくくなることは経験的にも実証的にも知られているが、漢字を使用する日本語においては、画数の影響も考えられる。しかし、画数増大による単語認知速度の低下を報告している研究はみあたらない。ここでは、高速逐次提示法によって継時的に提示される3つの単語を読み上げる課題を用い、観察距離38cmで、文字サイズ0.474度の3文字単語を、2種類のコントラスト(25%,100%)で提示して実験をおこなった。単語には、ひらがな、漢字混じり語(画数少)、漢字混じり語(画数多)の3種類があった。その結果、老視者・非老者ともに漢字混じり語(画数多)では他の文字種条件よりも読字閾提示時間が長く、解像度の影響があると思われた。コントラストの影響は老視者において顕著で、画数が多いとコントラストの影響が増幅された。また、測定した眼の調節力をもとに老視者を2群に分けると、調節力の低下がそれほど顕著でない場合は健常視者と類似した読字の成績を示すことが分かった。 【母語と非母語の単語の視覚探索】 文字サイズやコントラストが老視者の読字に与える影響は母語よりも非母語の読みにおいて大きいという仮説のもと、視覚探索課題の反応時間を測ることにより、日本語(カタカナ)と英語の単語の読字速度を老視者と健常視者で比較した。画面上に提示した8個の単語を左から右へ探索し、ターゲットである非単語が存在するかしないかの判断を被験者に求め、反応時間を測定した。観察距離40cm、2種類の文字サイズ、2種類の輝度コントラストで実験を実施し、提示位置の関数として反応時間を各条件でプロットした。その結果、健常視者はどちらの言語でも文字サイズ・コントラストの影響をまったく受けないのに対して、老視者は文字サイズとコントラストが厳しい条件で読字速度(提示時間)が低下し、その低下は非母語である英語においてより大きかった。
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