研究概要 |
【文献研究】 当該年度(1年目)においては、フィールド研究の「準備稿」的位置づけとなる論文「中国における未成年者保護の現実と可能性」を脱稿した。小論においては「基層」社会において犯罪から子どの権利を守る懸命の努力が続けられていること、そこに地道な社会教育の取り組みが存在することを描き出そうとした。まず、子どもが被害者となる悪質な犯罪に立ち向かううえで理念的・実効的支柱となる法規は何であるか提起し、その成立や改正過程をあぐる議論を踏まえて述べた。次いで、児童誘拐及び売買事件への警察当局の取り組み状況を直近の資料をもとに検証した。これにより子どもの権利保障の実現のために国家権力の介入がいかに重要な位置を占めているか理解できた。ところで法制社会の定着を急ぐ中国政府は,法令を運用し犯罪の摘発を実行しつつも、摘発自体を最終目的にするのではなく、社会教育を通じてコミュニティの意識変革を目指そうとする。最後に、子どもの権利保護を目指して関係当局及び地域住民自らがどのように行動を起こしているかその一端を提示し、改めて前節で示した法理念の重要性を考えた。 【フィールドワーク】 1)当該年度(1年目)においては調査対象地域(湖南省新化県Z村)を設定、ケースとなる家庭及び子どもを決定した。当初、(1)小学5年生の子どものいる留守児童家庭、及び(2)初級中学2年生の子どものいる留守児童家庭に限定して当該村関係者に紹介依頼したところ、3名の紹介があった。一人目は典型的な留守童(男児)であり、二人目は幼くして父親を亡くし母親がその後家を出たという孤児(男児)、三人目は両親とも事故で亡くした孤児(女児)である。学費及び進学問題に焦点を絞り、継続して連絡を取り参与観察を行っていく。 2)彼らが通うZ小学校を訪問、校長や先生方に研究の趣旨を説明し、今後のフィールド調査の協力を要請した。
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