本研究は参与観察という手法を通じて生活の場に関わりつつ、子どもや両親の自己形成史を跡付け、教育がそこに果たす役割と未来への展望を描き出す試みであり、そこに関与する人々の実際生活に即した問題解決への努力、いうなれば中国社会の良識ある人々の取り組みを掘り起こすことを目的としている。 その第一歩として、まず湖南省の農村における初回のフィールドワークで重要なインフォーマントとなった留守児童及び家族の生活状況について記述し、その生活の舞台である農村の概観を記述した。続いて留守児童の両親が出稼ぎ先においてどのような環境を生きているのか、浙江省における調査をヒントに検証した。環境に注目するのは、親たちも出稼ぎを通してその環境を生き、自己形成を果たしており、それは間接的に出稼ぎ者自身の子女教育観へとつながっていくと考えるからである。この観点から、さらに出稼ぎ先における親たちの平均的な教育観を割り出すために、調査対象者を広げてアンケート及びインタビューを試み、結果を簡述した。参与観察は始まったばかりであり、データ及びフィールドノートは質的・量的に不十分であったことが反省点である。しかし少なくとも本年度調査により、出稼ぎ労働者の仕事と留守児童の生活が実は我々自身の生活と構造的に連接しており、留守児童問題は遠い世界の事象ではないことが認識できた。その意味では開発教育的視点からも興味深い事例となるだろう。
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