本年度においては、都市と農村の教育格差の問題に関連し、主に中国政府や社会が留守児童の夢の実現に向けてどのようにサポートしていこうとしているのかを検証した。 第一に、中央の策定した発展計画の検証をつうじて、全体的な国民の高学歴化と実務能力の向上が目指されていることが明らかとなった。留守児童や外来建設者もそのターゲットなのである。 第二に、湖南農村における二回目のフィールドワークで実施したアンケート及び聞き取り調査に基づき、留守児童たちの生活背景と将来の夢を描き出した。この夢を実現するためには、まず親(或いはそれに代わる人)による手厚い看護が必要であり、そのためには出来る限り親子が一緒に暮らせる環境づくりが必要であろう。 第三に、上記の取り組みの事例として、農村労働力を必要とする沿海都市(フィールド地は漸江省義烏市)が外来建設者の子どもたちをどのように処遇しようとしているか明らかにした。外来建設者に連れられて市内で同居する子どもたちを公立小中学校で積極的に受け入れ、教学の質を保証し、費用面での負担を軽減しようとの義務教育政策は確かに都市住民と農村住民の教育格差を縮めるきっかけになるだろう。 これに加え、経営者を中心とする市民ボランティアが組織され、(夏休みで親元を訪れている)留守児童向けに夏季特別講座が開かれていたことも特筆に値する。 但し、上記のような取り組みが、子どもの権利条約にあるような「子どもの最善の利益」保障という理念に本質的に基づいたものであるか、そうではなくて当該地域の経済発展のための福利厚生政策なのかは慎重に見ていかなくてはなるまい。 そのためにも継続的なフィールド調査が必要である。
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