特殊函数は純粋数学から工学等の応用に亘って現れる重要な対象である。特にその多くは複素積分表示をもっており、多くの知見を得ることができる。ここに、特殊函数の「特殊」たる所以がある。そこで、積分表示についての組織的研究・構造解明には大きな意義がある。 本研究は、「積分表示は須らく周期積分である」という哲学に則り構造解明を目指すものである。つまり、積分表示を「周期積分=コホモロジーとホモロジーのペアリング」として定式化することにより特殊函数を理解しようとするものである。被積分函数が「確定特異点型」と呼ばれるクラスでは、この定式化は成功しており、この視点が有効であることはよく知られているところであった。(その根本理由の一つはリーマンヒルベルト対応が十全に機能することにある。)一方で、「不確定特異点型」の場合は、不十分な理解に留まっている。本研究は、この場合に道を拓くことを目標としている。特に、合流(確定特異点の極限として不確定特異点を産み出す)過程を理解することが主題である。 その為に、確定・不確定を問わず共通に用いることのできる周期積分の枠組みを整備する必要がある。2009年度の研究に於いて、旧来の理論に付加すべきデータとして何が必要であるか、ということを詰めた。2010年度は、このデータを取り込みつつ周期積分を記述する枠組み(コホモロジー及びそれらが定式化される為の「図形」)を模索し、有望な候補を見出した。 尚、この枠組みでは、リーマンヒルベルト対応の不確定特異点版が確立されているべきである。そこで「不確定特異点」「リーマンヒルベルト対応」等の研究者と、フランスにおいて研究討議を行った。
|