研究概要 |
当初の目的は、平成22年度までに得られたいくつかの拡散過程のいずれかに確率解析を応用してKeane-Thurston予想の確率解析的別証明を与えることを試みることであったが、それらの拡散過程に付随する容量については拡散係数の正則性に関する難点があり、一意エルゴード的でない水平葉層構造をもつアーベル微分全体の次元の評価にはいたらなかった。ただし、これらの研究を遂行する過程において得られた副産物として、一般化されたLasota-Yorke写像(以下、GLY写像という)のランダムな反復合成から定義されるランダム力学系に関して本研究代表者が過去に行なった研究結果の改良版が得られた。具体的には,必ずしも独立ではない定常過程にしたがって各時刻毎にGLY写像をランダムに選択し、写像の合成を反復することによって与えられるランダム力学系を考える。このとき、ランダムネスを与える定常過程のエルゴード理論的性質の強度に応じて、ランダム力学系に対応する歪積変換がもつエルゴード理論的性質が次のように影響される。ランダムネスがエルゴード性をもつならば、歪積変換は有限個のエルゴード成分をもち、それぞれのエルゴード成分は歪積変換の有限回の反復合成によって全エルゴード的成分に分かれる。さらに、ランダムネスのエルゴード理論的な性質を、弱混合性、混合性、完全性と強めていくと,歪積変換の全エルゴード成分もこれに応じて、弱混合的成分、混合的成分、完全成分となる。この結果については2011年8月末に北海道大学で開催された研究集会:Control and Noise in Dynamical Systemsでの招待講演「Spectral decomposition of one-dimensional random dynamical systems」において報告した。
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