研究概要 |
本研究は,樹枝状結晶の成長をモデル化した自由境界問題の解の構成を目指したもので,その土台となる,針状の進行波解を求め、その安定性を解析し,不安定化の帰結として側枝をもった解の存在を示すという方針に沿って,数学的理論を構築することを目的とする. 初年度は,準備として,基本的な文献を収集し,また,自由境界問題を取り扱う代表的な枠組みについて考察した. まず、針状結晶および樹枝状結晶と類似の問題として、粘性指の問題がある.これは,狭い間隔でおかれた二枚の並行平面の間に高粘性流体を満たしておき,そこに,定粘性流体を注入したときに形成される指状の界面のことである.このような界面が存在することをSaleh Tanveerは1980年代半ばに複素変数函数論の手法を用いて示した.その後,Tanveerはこの方面の研究を進展させて,界面の安定性の問題をも論じている.さらに,彼のグループは,針状結晶や樹枝状結晶の存在も函数論的方法で示した.これらは空間次元が2であることを用いているので,3次元空間内で成長する界面を取り扱うことはできない. 次に,結晶成長モデルの基礎となる界面の表面張力を考慮に入れた二層ステファン問題について,古典的な方法と変分不等式を用いる定式化とその解法に関するサーベイを行った. 以上のような先行結果について,石渡哲哉(芝浦工業大学・准教授)と二宮広和(明治大学・准教授)とともに,勉強会を開いた.二宮は様々な形状をした進行波解の構成について研究しており,また石渡はクリスタライン運動の観点から針状結晶と樹枝状結晶の離散モデルの構成という新しい問題を提起した.
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