今年度,針状および樹枝状結晶のモデルと類似の性質をもつHele-Shaw流の粘性指や粘性泡の形成に関するモデルをも含む一連の研究を概観し,そこから未解決問題を整理し,数学的困難を抽出することから出発した.空間2次元の針状結晶のモデルでは,表面張力を考慮しない場合,Ivantsovによって一定速度で進行する放物線解の族が知られているが,その先端の曲率と進行速度の積しか決まらない.形式的な漸近解析を行い,次のことが1980年代に(数学的観点からは)予想された:解が一意に決まるためには,表面張力を考慮する必要がであるが,表面張力の効果が等方的であると仮定すると,進行波解が存在しないことが分かり,結局,異方性を含む表面張力を考慮したモデルに対し,安定な進行波解が存在するであろう.このことは,およそ15年後に,Xieによって厳密な証明が与えられた.同様に,Hele-Shaw流における粘性指について,表面張力を無視すると指の幅の自由度をもつ進行波解の一径数族が得られ,表面張力を考慮すると,離散的な解の族が得られることが形式的展開により予想されていたが,TanveerとXieにより厳密な証明が与えられた(2003年).彼らの証明法は一変数複素解析学を用いるものである.これらに関して二宮広和氏と石渡哲哉氏と詳細な検討を加えた. 以上の結果を検証するなかで,結晶成長モデルと粘性指の形成モデルとの類似性と相違点が明らかになってきた.本研究の目標である側枝の形成に関しては,粘性指の場合にも側枝が出現すること,その原因は,先端部が振動するために引き起される擾乱が遠方に伝わるうちに,曲率の小さい場所で界面が不安定化するためであることを数値的に確かめたCalifornia大学Irvine校のLowengrub教授の研究を厳密化すればよいと結論づけることができた.
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