本年度はQCC製造装置の整備をまず行った。電気通信大学から移設した後、再設置を行い、空気を使用してマグネトロンが正常に発振すること、プラズマが生成されるところまで確認した。また重水素の割合を変えたメタンガスを用意し、次年度の実験に進める準備をほぼ整えた。一方、「あかり」の分光データ解析を進め、惑星状星雲のデータについては取得したデータの一次解析をほぼ終了し、50を超える惑星状星雲の3ミクロンのPAHバンドについての初めてのデータを得た。現在、さらに詳細な解析を進めている。これと平行して、分光データのスペクトルレスポンスの再評価を標準星の観測を用いて行った。この結果、ヘリウム消失後の感度が約30%落ちたことを確認するとともに、平滑化処理を効率的に行うことにより、波長分解能は劣化させずにS/Nを挙げるレスポンスカーブを導出した。新しいレスポンスカーブは、特に本研究で必要とする弱いバンドの検出に非常に有効であることを確認した。またスリット分光によるHII領域、原始星、PDR領域のデータ解析を行った。この結果、スリット分光では検出器の列の特性に関わる固定パターンが10%のレベルで生じる領域があることがわかった。この部分は、丁度重水素を含むPAHのバンドが期待される領域でもあるため、慎重な解析が必要である。現在この固定パターンを補正する手法の検討を進め、重水素化PAである可能性のあるバンドの検討を進めている。これまでのところ予想される範囲には有為なバンドが検出されていないが、さらに詳細な検討が必要である。
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