ホーキング熱輻射は、ブラックホール内外の因果的に切れた事象地平の存在に起因する。一方、加速の要因に関わらず、等加速度系の観測者にとっても、慣性系の真空領域のうち因果的に入り込めない領域が存在する。その結果、加速度系の観測者にとって慣性系の真空が熱浴にみえる。そこで、高強度場がもたらす高加速度により、人工的な事象地平を慣性系時空上に導入することを考える。その際、加速度系にいる観測者が感受する熱浴の効果(ホーキング・アンルー温度)を、慣性系の観測者が実際に検出可能かどうか、その熱輻射の兆候を、電磁相互作用による加速度場、および、強い相互作用による加速度場により探ることを本研究の目的として、21年度は第1に、高強度レーザー電場による電子加速による輻射の兆候を探るべく、産業技術総合研究所(AIST)にて電子加速器運転に伴うノイズ低減のための試験を行った。その結果、ノイズは完全には落とせないが、AISTにて輻射兆候を探ることは不可能ではないことは確認できた。並行して、さらに有意な熱輻射量を得るため、より高強度(高加速度)のレーザーを有するドイツ・マックスプランク研究所において、ミュンヘン大学の研究者らと共同研究を開始した。その具体的なアクティビティーとして、本研究課題の物理的意義を深化させるため、複数回の研究会を高エネルギー加速器研究機構およびミュンヘン大学にて開催し、さらに日本物理学会においてもシンポジウム「高強度レーザーと基礎物理」を企画し、自らも講演した。第2に、強い相互作用による加速度場からの輻射の探索として、核子対あたり200GeVの重心系エネルギーを金原子核衝突で実現し、そのデータ取得を年明けから継続している。これと並行して、現在、解析コードの準備を整えつつある。
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