研究概要 |
金属水素が高温超伝導を示す可能性が40年前に提唱されて以来,水素化物超伝導体が注目され続けてきた.しかし,水素の取り扱いの危険性からか新超伝導物質の探索研究は進展していない.ところが,近年,銅酸化物高温超伝導体の基本構造であるペロブスカイト型構造を有する水素化物も合成されるようになった.その中で,伝導性が期待できるCaPdH_<3-δ>に着目した. まず,原料Ca,Pdを高周波溶解してCaPdを得た.次に,このCaPdを室温,2MPaの水素圧下で1日保ってCaPdH_<3-δ>を作製した.均質な試料を作製するため,これを500℃で16時間,真空中で加熱して脱水素化を行い,再度,室温,2MPaの水素圧下で1日保ってCaPdH_<3-δ>を作製した.しかし,2K以上では超伝導転移は観測できなかった.この原因を調べるため,CaPdとCaPdH_<3-δ>の比熱を測定した.CaPdH_<3-δ>の比熱は約120K以上でCaPdのそれより大きくなり,温度とともに増加した.これより,水素原子による高い振動数(特性温度858K)をもつ光学フォノンが存在することがわかった.また,低温比熱とバンド計算の結果より求めた電子比熱係数を比較して見積もった電子-格子相互作用定数λは0.24となり,超伝導体PdHのλ~0.7より小さかった.バンド計算の結果より,フェルミ準位での電子状態密度における水素の寄与が小さいため,高い振動数をもつ光学フォノンを活かしきれず,λが小さくて超伝導化しないということが分かった.この点を考慮し,Caをより原子半径の大きなSrで置換したSrPdH_<3-δ>を作製したが,2K以上では超伝導転移は観測できなかった.超伝導化には,さらに格子定数を大きくする必要があるという指針が得られた.
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