本研究は、電界効果トランジスタ(FET)の一種である電気二重層トランジスタ(EDLT)を用いて、銅酸化物の表面に超伝導転移を可能にするほど高濃度に電荷キャリアを静電的にドープすることを目的としている。電気二重層トランジスタは電界効果トランジスタで用いられる固体絶縁層の代わりに電解液を用いてゲート電圧を印加する。すると、電解液と試料の界面にイオンの層と、それによって誘起された反対符号の電荷の層が生じる。これは電気二重層とよばれ、電気二重層トランジスタでは、この現象を利用してキャリアをドープする。前年度の研究で、電解液としてイオン液体を用いることが有効であることが分かったが、さらにキャリア濃度を増加させる必要があることも明らかにされた。そこで、今年度はイオン液体を最適化するために、様々なイオン液体の電気二重層静電容量を電気化学インピーダンス法により測定し、また、分子動力学計算によるシミュレーションも行い、これらを合わせて解析を行った。その結果、イオン液体の分子構造と電気二重層静電容量の間に系統的な相関があることが実験的に明らかにされ、シミュレーションによってもその傾向が再現された。これにより得られる知見は、銅酸化物の電気二重層トランジスタにおける高濃度キャリア蓄積のみならず、電気二重層による蓄電デバイスである、電気二重層キャパシタ(ウルトラキャパシタ、スーパーキャパシタとも呼ばれる)の高性能化の指針にもなる重要な成果である。
|