一般に、電子物性は異方的である。特に、現代固体物理学の重要な研究課題である強相関電子系では、異方性が、そこで発現する新奇な現象に対して重要な役割を演じている。したがって、このような物質においては、異方性の決定は極めて重要であり、何らかの物理量を測定する際には、その異方性も評価しなければ真の情報を得たことにはならない。また逆に、物理量の異方性を決定すれば、対象としている物理現象のメカニズムに迫れるわけである。以上の要求から、本研究では、熱電能の面内異方性測定という新たな角度分解測定手法を提案した。この手法では、円柱座標における動径方向に温度勾配を発生させ、動径方向に生じた熱起電力を決定する。このことにより、熱電能の角度依存性が準連続的に抽出できるわけである。 まず、熱電能の特徴的な面内異方性を示すκ-(BEDT-TTF)_2Cu(NCS)_2にこの手法を適用した。この物質は方向によって、キャリアーの種類が電子からホールに変化するために、熱電能の大きな異方性を示す。本研究においては、この異方性を準連続的に測定することに成功した。また、室温と低温(窒素温度)で測定を行ったが、どちらもほぼ同一の異方性を観測することに成功した。 また、この研究をさらに発展させるために、極めて薄い有機結晶の合成技術の確立もめざし、ある種の結晶については成功した。
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