Shorのアルゴリズムに代表されるように、量子計算は大きな可能性を秘めている。量子計算を実現するために、量子系の位相的な性質を有効活用しようとするのが位相的量子計算であり、量子ホール系などにおいて実現が期待されている。 系の位相的な性質を区別するには位相不変量が用いられ、代表的な例が結び目のジョーンズ多項式である。これは量子不変量の一例であり、ウィッテンによって示されたようにチャーン・サイモンズ汎関数積分によって定義される。ゲージ群SU(2)を用いたものが(色付き)ジョーンズ多項式と呼ばれるが、ちょうど量子ホール系に相当していると考えられる。 量子計算の重要な指標の一つにエンタングルメント・エントロピーがあげられるが、このエントロピーの計算にはジョーンズ多項式の計算手法が非常に有効である。従って、エンタングルメント・エントロピーの物理的な性質を理解するためには、ジョーンズ多項式に代表される量子不変量の幾何的・物理的な意味付けを考えることが重要となる。 本研究の最終年度にあたり、研究代表者は分担者とともにトーラス結び目に対する色付きジョーンズ多項式の解析を詳細に行った。色付きジョーンズ多項式の漸近的な振る舞いを完全に決定し、SL(2;C)チャーン・サイモンズ不変量との関連性を明らかにした。これはカシャエフらによる体積予想の一般化になっている。また、結び目のライデマイスター捻れも漸近形から得られることを明らかにした。また、トーラス結び目以外でも、八の字結び目についてもチャーン・サイモンズ不変量、ライデマイスター捻れとの関連を調べた。
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