集団知の創発のメカニズムを解明すべく、1.前年度に行った投票実験の追試を北大において実施、2.実験データをもとに導入した投票モデルの数理的な解析、3.自己の情報と他者の情報の二つの情報をもとに意思決定を行う情報カスケードの実験を実施した。 1. 二択のクイズの投票実験では、イジングモデル的な相転移現象が起きることを、システムサイズ50のデータと、その漸近的な振る舞いの解析、また、データをもとに導入したad hocなモデルのシミュレーションより明らかにした。クイズの回答を知っているヒトの比率90%が臨界点であり、その比率が90%以下では正答率の分散の投票人数依存性の指数が1のOne Peak相、90%以上ではゼロのTwo peaks相になる。また、他者の選択のコピーにコストをかける設定での実験も行い、選択の振る舞いを解析した。コストがない場合と比較し、コピーのコストにより、他者の選択のコピーの傾向が弱まり、競馬市場の投票表モデルで仮定した振る舞いと見られた。ただ、コピーのコストにより、Two-Peaks相への相転移の影響は今後の課題として残った。2. 1で導入した投票モデルを確率微分方程式にマップし、その厳密解を解析した。結果、One Peak相とTwo Peaks相の相転移は、Super Diffusion相という、上記の指数が0と1の間をとる相を経由することがあることが分かった。特に、投票者の中で情報を持ち、他者の選択の情報に影響されない人:独立投票者の正答率qが0.5の近傍で、そうしたSuper Diffusion相を経由する。 3. 二択にクイズの代わりに、情報カスケードの実験で用いられる「壺の選択」の実験を行った。従来は、一人ひとりの選択の様子を実験参加者は確認できる場合であったが、我々の実験は実験参加者には過去に選択した全員の選択のデータのみを与えた。結果、従来の結論とは異なり、情報カスケードが自己修正されない可能性が明らかになった。
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