本研究の実施にあたり、温度変調X線回折法と呼ぶべき新しい実験法の開発と確立が不可欠な要素である。一昨年に温度変調X線回折法の中心部分である試料セルの試作を行った。その実績を基に、昨年は温度制御系に改良を加え、実験技術として確立したと言える段階に達した。一方、試料から発生する小角領域の散乱の立ち上がりは、試料作成時の温度履歴で変化することから、試料中の微小な不純物などが原因ではなく、微小なボイド(空隙)などの試料自身の構造に由来するものであることが明らかとなった。このため、試料作成時の温度履歴の最適化のみならず、高圧でボイドを消滅させることなどを試みたが、現在までのところ、小角領域の散乱の立ち上がりを制御するまでには至っていない。 しかしながら、温度変調X線回折法という新たな実験技術が、物性研究に非常に有効であることがこの研究の中で明らかになってきた。当初は、動的不均一性の検証という特殊問題のための方法として考案された技術であったが、温度変調生成とその測定の技術の向上で、熱容量測定法として十分に機能することが確認されたためである。従って、この方法はX線回折と熱容量測定の同時測定装置として使用できることになった。これにより、X線回折という構造研究と、熱容量測定という熱力学的測定を、同時に行うことが可能になった。この方法は基礎科学的にも材料研究においても、貴重なデータを提供し得るものと期待される。
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