本研究は、ガラスダイナミクスの特徴として注目されている、動的不均一性を構造の空間的不均一性に変換して直接的検証を行うことを目的としている。この研究のために開発した温度変調エクス線回折法は、十分な信頼性をもった技術として確立できた。しかしながら、動的不均一性の検証にはこれまでのところ至っていない。近年の研究で、動的不均一性のドメインは一次元的広がりを持つという提案がなされている。ドメイン形状が線状であった場合、温度変調法によって動的不均一を密度不均一に変換してもX線回折の形状因子が広がった形になり、検証が難しくなる。このことが、検証ができていない原因である可能性がある。線状のドメインを配向させることができれば異方性の特徴を検出するという方法もあり得るが、ドメイン配向は全く新しい技術であり、本研究での実現は残念ながら難しいと言わざるを得ない。 温度変調X線回折法は、X線回折とacカロリメトリー法と呼ばれる高精度熱容量測定の同時測定法として、他の現象への応用も可能となった。特に半結晶性高分子のモルフォロジーに対するアニーリング効果の研究に高い有用性を持つことが、本研究の技術開発の中で明らかとなった。X線回折による半結晶性高分子のモルフォロジーの研究は、小角散乱法が確立された方法であるが、この方法では板状結晶の積層方向モルフォロジーしか分からない。本研究の方法では、板状結晶の側面の状態が熱容量として検出可能であるため、積層方向と側面の、いわば3次元的情報を得ることができる。本研究の目的としては副産物であるが、高分子モルフォロジーの新たな研究法を開発することができたと言える。本補助金の研究期間は終了となるが、高分子モルフォロジーへの応用としてSPring-8の研究課題に採択されており、今後も研究を続ける計画である。
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