マウスの発生過程において左右差を初めて決めるメカニズムには、発生初期過程に現れるノードと呼ばれる窪みに並ぶ繊毛の回転運動が大きな役割を果たしていると考えられている。繊毛の回転運動によって、ノード流という体液の流れが生じるが、この流れを人工的に反転させるとマウスの左右も反転するという実験によって、流れ自体が、左右差を決定する2次的シグナルを生成することが示唆されてきた。ウリムシ表面のなどに通常良く見られる繊毛では、繊毛間の距離が非常に小さいため、繊毛同士協同的に運動することで効率的な全体の運度会うを生成することが良く知られている。一方、ノード繊毛は、1細胞に1本ずつという非常にまばらに生えている特殊な繊毛であり協同的な振る舞いは期待されていなかった。本研究では、ノード繊毛間の回転運動を調べ、協同性の有無を検証し、まばらで本数も少ないノード繊毛からどのようにして大局的な流れが生成されるのか、そのメカニズムを明らかにすることが目的である。 H21年度は、繊毛間の回転運動を位相情報に落とし込み、繊毛間の位相差がどのように時間発展するのか解析を行った。その結果、位相スリップという同期と非同期の間の現象が観察された。また、同期状態にある割合を発生の各ステージで計算すると、初期過程が最も高く、次第に減少することが明らかとなった。一方、繊毛回転によって生成するノード流の流速解析から、流速は発生過程が進むに連れ、逆に増大することが明らかとなった。協同性と流体流速のトレード・オフの関係が、どのように効率的な情報伝達に寄与しているのか調べるために、結合振動子モデルを構築した。
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