磁場の下で良導性の流体が運動すると、発電作用により流体内に電磁場が発生する。この現象をダイナモ効果と呼ぶが、海洋にもこの効果は現れる。すなわち、海水は電気伝導度3~5S/mの良導体であり、それが地球主磁場中で運動すると海中に誘導電磁場が作られる。しかし、地磁気は磁場として弱い為、通常はノイズレベル以下の微小な電磁場しか海底には現れない。 本研究では、千島列島沖で発生した地震による津波が、海洋のダイナモ効果を介して発生させた電磁場変化を、北西太平洋海盆に設置した海底電位磁力計で捉えることに成功した。電磁場観測は本質的にベクトル観測であるから、津波に伴う電磁場の実測により津波の到来方向が非常に精度良く推定できただけでなく、粒子運動速度の推定も一点だけの観測から可能である事が示された。海底圧力計を中心とする従来の津波計で粒子運動を見積もるには多点観測が必要であったことを考えれば、画期的な進歩である。 津波は重力波であるから、粒子運動速度が分かれば、直ちに波高が計算できる。平成21年度の研究では、観測された海底電磁場の時間変化と津波の流体力学的数値シミュレーション結果とを照合し、波高・粒子運動速度共に両者がよく一致することが確認できた。また、検証に使用した千島列島沖地震は、2006年11月と2007年1月に相次いで起きた双子とも言うべき地震であった。すなわち、前者は海溝陸側斜面で起きた逆断層型の、後者は海側斜面で発生した正断層型の地震であった。発震機構の違いを反映して、前者では押し波型の、後者では引き波型の津波が海底電位磁力計により観測され、それぞれの電磁場変化の符号が丁度反対であることも明らかになった。 この様に海底電位磁力計は、押し波・引き波の判定といった従来の津波計が持っていた機能だけでなく、一点観測による方向探知や粒子速度の推定を可能にするなど新たな機能を備えていることが分かった。これらの点を踏まえ、次年度(最終年度)は、海底電位磁力計を用いた実効的津波予測についての研究を行う。
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