化学結合の組み換えや量子効果が本質的な化学動力学を記述するためには、高精度の量子化学計算で求められるポテンシャルエネルギー表面を用い、十分な統計量を出すための非常に多数のトラジェクトリに基づくシミュレーションを行う必要がある。しかし、これを成し遂げるための最大の障害は、高い精度のポテンシャルエネルギー表面を求めるためのコストが高過ぎて、十分な量のトラジェクトリを走らせることができず、著しく不十分な本数になってしまうか、あるいは、高精度のポテンシャルの利用を断念して、精度の非常に低いモデルポテンシャルなどを用いざるを得なくなるため、信頼に足る量子動力学計算がほとんど行えないことである。 本研究では、この難題を解決するために、ポテンシャル表面の効率的構築および探索の手法開発を進めている。 ポテンシャル表面の非調和性を、極端に少ないサンプリングで精度よく評面し、それに基づいて、ポテンシャル表面の多項式展開による解析的ポテンシャルを構築する手法の開発を、CH4Oなどの系について行った。これにより、遷移構造から走り出すトラジェクトリに基づく、ダイナミクス計算を行った。 また、光化学ダイナミクスの解析に向けて、円錐交差およびSeamを自動探索する手法の開発と、カルボニル化合物系への試行的応用を行い、これまで未解明であった、ホルムアルデヒドの光化学ダイナミクスについて、新しい知見を得た。
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