今年度は、流動パラフィン中の金属ポルフィリンの常温・溶液中のESR観測と連続的に粘度を変化させることができる無極性溶媒の探索を行った。最終的に、以下のような結果が得られた。 1.亜鉛、マグネシウム、フリーの各テトラフェニルポルフィリンの常温の流動パラフィン中における励起三重項状態の時間分解ESRスペクトルの観測を試み、ゼロ磁場分裂を反映して異方性のあるスペクトルを観測することが出来た。解析から、1)ゼロ磁場分裂は低温とさほど変わらず電子状態に大きな変化はないが、2)常温ではヤーンテラー分裂した2つの励起三重項状態の両方に分布があること、3)この2つの励起状態間で強いスピン軌道相互作用があること、などがわかった。 2.常温・流動パラフィン中の超高速高周波Wバンド95GHz時間分解ESRの観測から、g値の異方性とスピン副準位への分布速度が求められ、2つの状態間の強い相互作用、項間交差速度の絶対値を求めることができた。これは、高周波ESRにより熱分布のESR信号が観測されたためある。 3.高粘度溶媒と低粘度溶媒を任意の割合で混合することによって、連続的に粘度が変化する無極性溶媒の探索を行った。種々の溶媒を試した結果、以下の2つの溶媒が広い粘度範囲で完全に混合することがわかった。1)SH200シリコンオイルとトルエン:これは粘度範囲が1-1000cPまでカバーできる。2)流動パラフィンとトルエン:こちらは1-100CPの範囲で変化させることができる。
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