研究概要 |
正電荷をもつ閉殻構造の炭素陽イオン種はカルボカチオンと総称され,中心炭素はsp^2混成軌道からできた3つの結合をもち,上下に均等に張り出した空のp軌道を有する。本研究では,多金属骨格への架橋配位という安定化因子と束縛因子を同時に付与することで,準安定化された非平面形カルボカチオンを発生させ,その構造,電子状態および反応性を解明する。さらに得られた知見を基に,ルイス酸触媒への応用を試みる。バタフライ形構造をとる四鉄に架橋配位したブロモアセチレンから,臭化物イオンを銀塩で引き抜くことで,非平面形エチニルカチオンの発生に成功し,ピラジンの配位による準安定化に成功した。得られたカルボカチオンの合成等価体は,アセトニトリルには溶解するものの,その他の一般的な有機溶媒に対する溶解性が低いことが明らかとなり,将来的にルイス酸触媒へ適用する場合には,この点が問題となりうる。有機溶媒に対する溶解度の向上を図るために,対陰イオンをヘキサフルオロリン酸イオンからテトラフェニルホウ酸イオンへの変換を試みたが,ホウ素上のフェニル基が陽イオン炭素上に求核付加した化合物が得られた。より安定な陰イオンとして,フェニル基のメタ位にトリフルオロメチル基を2つ導入したTFPB陰イオンを導入することで,有機溶媒に対する溶解度が向上した目的生成物が得られたが,不純物の除去がうまくできず単離には至らなかった。有機溶媒に対する溶解度の向上に寄与する,安定な陰イオンの導入に関する更なる検討が必要である。
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