研究概要 |
酸素分子による消光を受けない蛍光団と,酸素によって顕著な消光を受けるりん光団をリンカーで結んだ酸素プローブ分子を開発した。りん光団として、酸素による消光を顕著に受けるイリジウム錯体BTPを、蛍光団として酸素消光をほとんど受けないクマリン343を用いた。発光団を結ぶリンカーとしてまず剛直なステロイド環を用いたところ、有機溶媒中では酸素濃度に依存して蛍光強度とりん光強度の比が変化し酸素プローブとして機能することが確かめられた。しかし、細胞膜のモデルであるDMPC脂質2分子膜中における発光特性を検討したところ、ステロイドの凝集性により分子が膜内、で凝集し、りん光強度が減少してしまうことが判明した。そこで、膜内での凝集を抑え、かつ剛直なリンカーとして機能すると期待されるプロリン4分子をリンカーとするハイブリッド型酸素センサーC343-Pro4-BTPを合成し、その光物理的性質を有機溶媒中、DMPC脂質2分子膜中、HeLa細胞中で検討した。その結果、C343-Pro4-BTPは、低酸素状態では赤色に発光し、酸素存在下では青色に発光する2色発光プローブとして機能することがわかった。Stern-Volmerの式に基づいて、溶液または脂質二分子膜中の酸素分圧と蛍光/りん光強度比の関係を調べたところ、それらの間に定量的な関係が見られた。すなわち、C343-Pro4-BTPの蛍光/りん光強度比を測定することにより、プローブ分子の濃度や集積性に依存せずに微小環境の酸素濃度分布をリアルタイム計測できることが示された。さらに、HeLa細胞の培養液にC343-Pro4-BTPを添加し、りん光顕微画像を測定したところ、細胞内においても酸素分圧に依存して蛍光/りん光強度比が変化することが確認できた。すなわち、この新しいハイブリッド型発光プローブは、細胞内酸素レベルの計測に適用できることが明らかとなった。
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