印加電圧に応じてON/OFF状態が切り替わってその状態を維持する、電気的双安定性を有する高分子無定形固体の創出と、それを用いた全有機メモリ素子の実現を目的とした。安定ラジカルを高密度に置換した高分子であるラジカルポリマーを対象とし、SOMOレベルを制御したポリマーの精密合成を基盤として、電荷注入と空間電荷の挙動に関わる基本現象を解明した。資源に制約のない有機分子のみでメモリ素子を創出する研究を切り口として、高分子固体の電気的双安定性の支配因子を解明した。 具体的には、ラジカルポリマー層を電極で挟んだ構造の薄膜素子を用いて、ON/OFF比高く状態保持力を有し、繰返し耐久性数千サイクル以上の素子性能を実現し、ラジカルポリマーに期待される特異な電荷注入・輸送現象を分子構造と相関させて解明したことにより、低電圧でも駆動するポリマーを創出した。本年度の成果を以下に列挙する。 1)空間電荷層の観測とその動的制御法の確立ラジカルポリマーおよび関連する誘導体を電極で挟んだ単層型素子を対象として、空間電荷制限電流に基づく極性転換型メモリを創出し、電極からの電荷注入および輸送現象に関わる固体物理を解明した。ラジカルポリマーに注入された電荷の挙動を自己電子交換効率から見積もり、適度な空間電荷制限電流を与えるポリマーの設計に役立てた。単層素子の極性転換機構を明らかにするとともに、ラジカル部位の酸化状態を制御して、低電圧駆動を可能とする素子構成を工夫した。 2)空間電荷の動的挙動の解析ラジカルポリマー固体における空間電荷の動的挙動を、高速パルス応答やインピーダンススペクトルなどから明らかにした。単一ラジカルポリマーを電極で挟んだ素子で、パルス電圧印加直後の残余電流、電極界面でのオキソアンモニウムカチオンの生成、R-V曲線から空間電荷制限電流の発生を明らかにし、極性転換型メモリとして具体化した。
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