土壌や川などの自然環境中において、分解酵素が存在しないために生分解が生じないポリ乳酸に、使用中は分解せず、使用後は分解が開始する機能を持たせるために、ポリ乳酸分解能力を有するタンパク質分解酵素の一つであるプロテナーゼ-Kを包摂させた酵素・ポリ乳酸複合材料の創製を試みた。 複合材料化に先立ち、有機溶媒に対する酵素の活性能力を検討したところ、通常のフィルム作製に用いるクロロフォルム溶液に対しては、1週間程度浸漬しても活性が落ちないことがわかった。そこで、所定の酵素を含んだポリマー溶液を調整し、溶媒を揮発させることにより、酵素包括ポリ乳酸フィルムを作製した。さらに、エレクトロスピニング法を用いて、酵素包括したナノファイバーの作製も併せて行った。 酵素包括したフィルムと酵素未包括をそれぞれバッファーに入れ、重量減少と操作型電子顕微鏡(SEM)により分解挙動を測定した。その結果、酵素未包括フィルムは全く分解が進行しないのに対し、酵素包括フィルムは、最初の立ち上がりはゆっくりであるが、分解が進行することがわかった。SEMで分解途中のフィルム表面を観察すると、表面から酵素が遊離したと思われる小さな穴が観察されるとともに、内部に向かって分解が進行している様子も観察された。本研究により、使用後、水中に投入すると分解が開始する複合材料の作製に成功した。
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