OLEDのEL外部量子収率(η_<ext>)は、キャリヤバランス(γ)、光取り出し生成効率(ηp)、励起子生成効率(η_r)、PL量子収率(η_<PL>)の4つの因子からなる。電流励起時の励起子生成効率は、一重項励起子と三重項励起子が1:3の割合で生成されるため、従来の蛍光材料を用いた場合、η_<PL>が100%であっても、内部量子収率(η_<int>)は25%に留まる。そのため、25%以上の励起子生成効率を得るためには、三重項励起子の利用が必須である。近年、T-T annihilation (TTA)を用いることで、三重項励起子を一重項準位へ遷移させ、遅延蛍光として取り出す方法が報告されている。しかしながら、TTAを用いた場合、半数の三重項励起子は無放射失活により基底状態に戻るため、TTAによる一重項励起子の最大生成効率は15%であり、トータルの励起子生成効率は最大40%に留まる。そこで、本研究では、新たな励起子生成機構として、熱活性化遅延蛍光(Thermally activated delayed fluorescence:TADF)を有機ELの新しい発光機構として用いる。この現象は、一重項準位と三重項準位のエネルギー差が小さい材料を用いることにより、三重項準位から一重項準位への逆項間交差(RISC)を熱エネルギーにより実現し、三重項励起子を遅延蛍光として利用する。 本研究では、高効率の熱活性化遅延蛍光を示す材料として、トリアジン誘導体(PIC-TRZ)を見出した。蛍光及びりん光は、λ_<Flu>=466nm(2.66eV)、λ_<phos>=492nm(2.52eV)にピークを示し、この値から一重項準位と三重項準位のエネルギー差(ΔE=0.14eV)が非常に狭いことが分かった。さらに、三重項準位の高いm-CPをホスト材料として用い、6_<wt>%-PIC-TRZ:m-CPの過渡PL特性から、初期成分の蛍光スペクトルと遅延成分の発光スペクトルが完全に一致することが分かった。5Kにおいて、η_<PL>=24%の発光効率が得られ、温度の上昇に伴い発光強度は著しく上昇し、常温においてη_<PL>=41%を実現した。このことは、熱エネルギーにより、遅延蛍光成分の強度が上昇することを示している。更に、熱活性化遅延蛍光をOLEDへ適用したところ、常温において強い熱活性化遅延EL発光を示し、電流励起下において高い励起子生成効率を実現した。
|