本研究では、ナノ粒子特有の高速結晶変態現象の解明とこれを利用した高感度センサの開発を目指した基礎データの蓄積を目指して研究を進めた。この現象は、これまでのわれわれの研究成果である、サイズが20nm以下の酸化コバルトナノ粒子を堆積させた膜がガス雰囲気によってCo_3O_4とCoOの間で可逆的高速相変態を起こすという実験結果に基づいたものである。この場合、スピネル型のCo_3O_4とNaCl型のCoOという結晶構造類似性が低い2つの異なる構造間で現象であり、これまでほとんど研究されてこなかったものである。しかもこのような現象は、同じ酸化コバルト系薄膜でもサイズの大きいナノ粒子の堆積膜や連続膜では観測されないことがわかっている。 そこで本研究では、この現象の本質をより深く理解するために、可逆的な相変態を高速に起こさせるため必要な条件(物質、サイズ、表面状態、分散状態)とそのメカニズムの解明を目指した研究に取り組んできた。初年度は、酸化コバルトのナノ粒子堆積膜について、主としてレーザーアブレーション法を用いてその調製条件と生成膜の構造や組成、高速結晶変態現象の有無と大きさの関係を系統的に調査した。調製圧力の変化により連続膜からナノ粒子堆積膜へと構造が変化し、これに伴いセンサ応答特性が変化した。最高の感度と構造安定性を持つ膜はナノ粒子凝集連続膜であることがわかった。さちに斜方蒸着法をレーザーアブレーション法を組み合わせることで、ナノ構造薄膜の次元性を制御できるが、センサ特性としては1次元ナノワイヤ堆積膜よりはやはり0次元ナノ粒子凝集連続膜が最も優れていることがわかった。
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