本年度は第一段階として、従来技術の欠点とその改善をはかることから出発した。従来のトランジスタはドーパントが高濃度ドープされた低抵抗Siを基板とし、絶縁膜としてSiO_2を使用している。このグラフェン/SiO_2/低抵抗Si基板構造の目的は、基板Si側からSiO_2を介してグラフェンに電界を印加することによって、グラフェン内の電子または正孔濃度を制御することにある。しかしながら、比誘電率εSiO2の値は3.9程度と小さいため、1桁以上の電子・正孔濃度を制御するためには大きなゲート電圧が必要となる欠点があった。また、SiO_2膜上のグラフェンは、グラフェン/SiO_2/低抵抗Si基板を通した光の多重干渉効果により、光学顕微鏡によって観察することできることが知られているが、小さな比誘電率εSiO2値のために、干渉コントラストがやや不鮮明である欠点があった。そこで、SiO_2の比誘電率に比べて大きな高誘電率を持つ誘電体薄膜(高誘電体薄膜または強誘電体薄膜)を用いることにより、上記2つの欠点を同時に解決する手法を探索した。SiO_2の比誘電率3.9に比べて2.2倍大きな絶縁膜としてAl_2O_3を選定し、グラフェン/Al_2O_3/低抵抗Si基板構造を用いた素子を作製し、電気伝導特性を調べた。Al_2O_3膜およびSiO_2膜上ともに、グラフェンに特徴的な正ゲート電圧時の電子および負ゲート電圧時の正孔による両極性伝導を示した。Al_2O_3膜上とSiO_2膜上とを比較すると、SiO_2よりもAl_2O_3の方が鋭いピークとなっており、ゲート電圧変化に対する感度が良く効率的にグラフェン内のキャリア濃度を制御出来ていることが分かった。これはAl_2O_3膜の比誘電率がSiO_2膜比べて大きく、対応して静電容量が大きくなる結果、Al_2O_3膜上のグラフェン内に発生する電子または正孔が、同じゲート電圧に対してより高濃度になるためである。このように、高誘電体材料ほどグラフェン内のキャリア濃度を大きく制御できることが実証された。
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