研究概要 |
光パルス励起コヒーレント反強磁性マグノンからのテラヘルツ波放射の試料温度依存性を調べた.光パルス照射により波数がほぼゼロのマグノンがラマン過程によって励起され,そのマグノンから磁気双極子放射によって電磁波が放射される.NiOでは波数ゼロのマグノンの周波数は約1THzであるので,約1psの周期の振動成分が現れている.一方,単一のポンプ光でNiOを励起した場合,波数がゼロの1マグノンが励起されることがラマン分光測定によって知られているが,その温度変化については詳しく調べられていない.ラマン信号は温度の低下とともに強度が減少し,さらに低温で2つに分離する,という報告がある(D.J.Lockwood et al., J.Magn.Mag.Mat.104-107, 1053-1054(1992)).(ちなみに温度変化についてはこの報告以外では見つからない)そこで単一の光パルスによって試料(NiO単結晶)を励起し,放射テラヘルツ波波形を試料温度を変えながら測定した.フェムト秒レーザーには光パルス幅100fs,パルスエネルギー0.8mJ(最大),中心周波数800nm,繰り返し周波数1kHzの再生増幅システムを用いた.その結果,放射テラヘルツ波周波数は温度の低下とともに高くなるが,前出の報告のような分離は観測されなかった.また別途,試料のテラヘルツ波透過特性測定から反強磁性共鳴周波数の温度変化を測定したが,光パルス励起放射テラヘルツ波周波数の温度変化はこれと一致した.すなわち,放射されたテラヘルツ波には前出の報告で指摘されているような表面マグノンの寄与は観測されず,バルクのコヒーレント反強磁性マグノンからの放射成分であることを明らかにできた.以上の研究を通じてテラヘルツ波放射分光が反強磁性マグノンの研究の有力な手段であることを示した.
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