研究概要 |
これまでにNiOについて,光パルス励起による反強磁性体マグノンの励起及びマグノンのからのテラヘルツ波放射現象を見出し,その機構解明について研究を進めてきた.光パルス照射反強磁性体からのテラヘルツ波放射現象に関してさらなる知見を得ることを目的として,H23年度は同様な遷移金属酸化物反強磁性体MnOについて調べた.MnOは反強磁性転移温度が120K程度で,同温度が530Kと高温なNiOでは困難であった転移温度近傍での物性を調べるのに適している. MnOに光パルス(中心波長800nm,パルス幅35fs)を照射後,放射テラヘルツ波波形を測定すると,NiOの場合と同様に特徴的な振動成分,すなわち光パルス励起反強磁性マグノンからのテラヘルツ波放射が観測された.振動成分の前に広帯域なパルス成分が観測されたが,このパルス成分は転移温度以下で増大するものの,転移温度以上でも残存することがわかった.NiOの場合にはこのようなパルス成分は存在しない.このパルス成分の起源を調べるため,光ポンプ-テラヘルツ波プローブ測定及び光伝導度測定を実施した.この結果,MnOでは光パルス照射によって,2光子吸収により自由キャリアが励起されていることを明らかにした.(なお,NiOでは光励起キャリアはほとんど生成されない.またNiOについては当初計画通り2マグノン励起の有無を確認したが,観測されなかった) 光励起された自由キャリアの寿命を測定したところ特徴的な温度変化を示すことを見出した.温度変化の原因を考察した結果,低温では光励起された自由キャリアの寿命は有限波数のマグノンの密度が関与していることがわかった.すなわち自由キャリア寿命計測から電子スピンの短距離秩序に関する知見が得られる.一方,テラヘルツ波放射測定では波数がほぼゼロのマグノンが観測される.すなわちテラヘルツ波放射測定により電子スピンの長距離秩序に関する知見が得られる.両者の温度変化を測定したところ,低温から温度の上昇とともにまず長距離秩序が失われ,それよりも10~20K程度高温で短距離秩序が消失することを見出した.
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