本申請研究では、超高効率太陽電池への応用が期待される多層積層量子ドットを対象とし、量子ドット間の電子の結合効果が光学特性に与える効果を、電子伝導およびバンド内緩和プロセスの解明を目的にしている。 試料には、歪み補償して30層積層したInAs量子ドットを用いた。この試料の励起子特性という観点において重要な点は、スペーサー層が薄くなると電子の包絡波動関数の結合のため、振動子強度が低下し、励起子寿命が長くなることである。この結合により、励起子エネルギーがスペーサー層により異なる。平成21年度は、まず光励起キャリアのバンド内緩和特性に対する量子ドット間の相互作用の効果を明らかにするために、広帯域なスペクトル幅を有する光源からの光を分光器により分解し、試料に照射した。また、様々な温度で励起子発光寿命の検出エネルギー依存性を測定した。 発光スペクトルを様々な励起光エネルギーで測定した結果、およそ0.6μm近傍に幅広いピークを有する光吸収帯が存在することが明らかになった。このエネルギーは、量子ドットにおける高次の励起子準位によるものであると考えられる。さらに、極低温ではすべての量子ドットがほとんど同じ発光減巣時間を示したが、温度の上昇とともに、わずか50Kでもサイズの大きい量子ドットの発光減衰時間が長くなった。これは、面内での量子ドット間相互作用によるものである。 励起子寿命が短い試料では、バンド内緩和プロセスが変化しないが、長い試料では変化が生じた。これは、電子伝導特性の測定において、十分に留意しなければならない結果である。これらの結果は、光吸収エネルギーが低いInAs量子ドットにおいて、高次の励起子準位を利用することで高い変換効率を有する太陽電池が実現できる可能性を示唆するとともに、電子伝導特性とバンド内緩和特性さらには、多励起子生成実現に向けて重要な知見である。
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