本申請研究では、超高効率太陽電池への応用が期待される多層積層量子ドットを対象とし、量子ドット間の電子の結合効果が光学特性に与える効果を、電子伝導およびバンド内緩和プロセスの解明を目的にしている。平成22年度は、励起子輸送現象に注目して研究を行った。試料には、歪み補償して100層積層したInAs量子ドットを用いた。各量子ドット層を隔てるスペーサー層の厚さは20nmであり、成長方向の量子ドット間相互作用により励起子寿命が長くなっている。まず、この試料において、試料表面から励起光エネルギーを様々に変えてレーザー光を入射し、基板からの発光スペクトルを測定した。その結果、特定の励起光エネルギーで発光強度が増加したことから、そこに励起子輸送経路が存在するとして、パルス幅約100fsの超短パルスレーザーを照射して発光ダイナミクスの測定を行った。その結果、発光スペクトルに立ち上がりの遅れが存在することが明らかになり、様々な励起光強度と温度で測定したところ、この発光の遅れは局在系で使用される拡散移動度モデルで説明でき、バルク結晶におけるInAsの電子移動度とほぼ同程度の移動度であることが明らかになった。また、この移動度は、温度が上昇すると長くなる、つまり移動度が小さくなることがわかった。このような多層積層量子ドットにおけるブロッホ輸送は本研究が初めての結果である。以上の知見は、積層構造量子ドットを用いた光デバイス、特に太陽電池の実現において、重要な知見である。
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