本研究は、有機強誘電性分子を用いた金属/強誘電体/半導体型電界効果トランジスタ(MFS-FET)の駆動可能性を探り、強誘電体膜内での分極方向やドメインサイズを制御することで、学習型人工ニューロン素子の基本概念獲得を目指すものである。本年度は、真空蒸着可能なビニリデン・フルオライド(VDF)オリゴマー及び強誘電体液晶を用いてSi基板上に積層型のMFS構造を形成し、その直接界面の構造・電気特性を評価した。P型Si基板(比抵抗5~8Ωcm)上に作製したVDFオリゴマー薄膜(170nm)においては、明瞭なD-Eヒステリシス特性が得られ、残留分極量は125mC/m^2であった。分極反転電流のピーク位置は正電圧側で+27V付近、負電圧側で-21V付近と異なり、p型Si内での空乏層が形成が示唆された。容量-電圧(CV)特性は電圧掃引方向に対して履歴特性を示し、メモリウインドウ9V、容量ON/OFF比:2.2であった。測定値から算出される空乏層幅は約700nmであり、使用したSiウエハの理論的最大空乏層幅とほぼ等しい。CV曲線は測定周波数に対して複雑に変化を示したが、詳細解析によりMOSキャパシタとしての振る舞いに加え有機強誘電体の誘電分散特性が重畳していることが分かった。総じて、有機強誘電体VDFオリゴマー自発分極により外部電力なしに強誘電体/Si半導体界面での反転層形成が示唆された。他方、P型Siウエハーとラビング処理ITO基板から構成した液晶セルに封入した強誘電性液晶の場合、半導体基板の比抵抗および測定周波数により電気特性が大きな変化を示した。これは強誘電性液晶の分極揺らぎとSi半導体内キャリアとの相関性を示すものである。
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